[00:01.522]「昨日人を殺したんだ」 [00:04.170]君はそう言っていた。 [00:06.827]梅雨時ずぶ濡れのまんま、 [00:08.973]部屋の前で泣いていた。 [00:12.119]夏が始まったばかりというのに、 [00:14.779]君はひどく震えていた。 [00:17.427]そんな話で始まる、あの夏の日の記憶だ。 [00:30.934] [00:30.935] [00:30.936]「殺したのは隣の席の、いつも虐めてくるアイツ。 [00:35.981]もう嫌になって、肩を突き飛ばして、 [00:38.911]打ち所が悪かったんだ。 [00:41.568]もうここには居られないと思うし、 [00:44.222]どっか遠いとこで死んでくるよ」 [00:46.904]そんな君に僕は言った。 [00:49.179] [00:49.180] [00:49.181]「それじゃ僕も連れてって」 [00:52.103] [00:52.104] [00:52.105]財布を持って、ナイフを持って、 [00:54.762]携帯ゲームもカバンに詰めて、 [00:57.676]いらないものは全部壊していこう。 [01:02.992]あの写真も、あの日記も、 [01:05.647]今となっちゃもういらないさ。 [01:08.254]人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ。 [01:19.137] [01:19.138] [01:19.139]そして僕らは逃げ出した。 [01:21.279]この狭い狭いこの世界から。 [01:24.190]家族もクラスの奴らも何もかも全部捨てて君と二人で。 [01:29.767]遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ。 [01:34.239]もうこの世界に価値などないよ。 [01:36.862]人殺しなんてそこら中湧いてるじゃんか。 [01:40.300]君は何も悪くないよ。君は何も悪くないよ。 [02:01.631] [02:01.632] [02:01.633]結局僕ら誰にも愛されたことなどなかったんだ。 [02:06.370]そんな嫌な共通点で僕らは簡単に信じあってきた。 [02:12.205]君の手を握った時、微かな震えも既に無くなっていて、 [02:17.525]誰にも縛られないで二人、線路の上を歩いた。 [02:22.834] [02:22.835] [02:22.836]金を盗んで、二人で逃げて、 [02:25.498]どこにも行ける気がしたんだ。 [02:28.143]今更怖いものは僕らにはなかったんだ。 [02:33.665]額の汗も、落ちたメガネも、 [02:36.045]「今となっちゃどうでもいいさ。 [02:38.697]あぶれ者の小さな逃避行の旅だ」 [02:49.607] [02:49.608] [02:49.609]いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる主人公なら、 [02:54.902]汚くなった僕たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな? [03:00.233]「そんな夢なら捨てたよ。だって現実を見ろよ。 [03:04.224]シアワセの四文字なんてなかった、 [03:07.667]今までの人生で思い知ったじゃないか。 [03:11.139]自分は何も悪くねえと誰もがきっと思ってる」 [03:32.298] [03:32.299] [03:32.300]あてもなく彷徨う蝉の群れに、 [03:34.945]水も無くなり揺れ出す視界に、 [03:37.612]迫り狂う鬼たちの怒号に、 [03:40.263]バカみたいにはしゃぎあい [03:41.589]ふと君はナイフを取った。 [03:44.256]「君が今までそばにいたからここまでこれたんだ。 [03:48.671]だからもういいよ。もういいよ」 [03:51.061] [03:51.062] [03:51.063]「死ぬのは私一人でいいよ」 [03:56.117] [03:56.118] [03:56.119]そして君は首を切った。 [03:58.515]まるで何かの映画のワンシーンだ。 [04:01.657]白昼夢を見ている気がした。 [04:04.298]気づけば僕は捕まって。 [04:06.943]君がどこにも見つからなくって。 [04:09.610]君だけがどこにもいなくって。 [04:12.239] [04:12.240] [04:12.241]そして時は過ぎていった。 [04:14.359]ただ暑い暑い日が過ぎてった。 [04:17.543]家族もクラスの奴らもいるのに [04:20.461]なぜか君だけはどこにもいない。 [04:22.855] [04:22.856] [04:22.857]あの夏の日を思い出す。 [04:25.248]僕は今も今でも歌ってる。 [04:28.178]君をずっと探しているんだ。 [04:31.028]君に言いたいことがあるんだ。 [04:33.671] [04:33.672] [04:33.673]九月の終わりにくしゃみして [04:36.063]六月の匂いを繰り返す。 [04:38.722]君の笑顔は [04:40.054]君の無邪気さは [04:41.646]頭の中を飽和している。 [04:44.511] [04:44.512] [04:44.513]誰も何も悪くないよ。 [04:46.870]君は何も悪くはないから [04:49.537]もういいよ。 [04:50.567]投げ出してしまおう。 [04:52.286] [04:52.287] [04:52.288]そう言って欲しかったのだろう? [04:54.669]なあ?