[00:17.081]消し去ってしまいたい記憶がある [00:20.710]忘れてしまいたいのに [00:22.727]それは叶わない [00:25.006]思い出すたびに 息ができなくなる [00:30.370]少し思い出話をしよう [00:35.143]私がまだ当主になる前 [00:38.111]共に修行をしていた霧人と言う男がいた [00:43.157]兄でした [00:45.326]私は霧人兄さんと呼んでいた [00:49.998]強くて優しくて 大好きだった [00:55.180]私には兄弟がいなかったから [00:58.003]優しくしてくれる霧人兄さんを慕っていた [01:02.800]憧れだったのか 恋というものだったのか [01:07.232]今ではもうよく分からない [01:10.500]兄さんは病を抱えた妹のために [01:14.608]毎日修行と仕事に明け暮れていた [01:18.651]そんな兄さんに私はある日ひどいことを言ってしまったんだ [01:28.221]霧人兄さん [01:29.668]あ…あ [01:31.118]最近顔色がよくありませんね [01:33.969]大丈夫だよ [01:35.505]大丈夫じゃありません [01:37.899]妹に比べたら、辛いことなんて何もないよ [01:43.955]兄さんは妹さんのことばかり [01:48.056]千代、どうしたんだ [01:50.705]あたしが本当の妹なら、兄さんにこんなに迷惑かけないのに [01:56.075]千代… [01:58.772]申し訳ありません、私…頭を冷やしてきます [02:07.006]その翌日から兄さんは道場に来なくなった [02:12.593]私は後悔した [02:14.860]私は兄さんの妹に嫉妬していたんだ [02:19.234]そんなつまらない理由で [02:21.796]兄さんと妹さんを傷つけってしまった [02:27.322]一ヶ月が経った頃 [02:29.914]霧人兄さんは再び道場に顔を出すようになった [02:43.964]霧人兄さん [02:45.746]ああ、千代か、元気だったか [02:49.801]あ、はい。あの…兄さん、あたし…ずっと謝りたくて [02:58.134]ひどいことを言ってしまって申し訳ありませんでした [03:04.135]そんなことを気にしていたのか、大丈夫だよ、僕を気遣ってくれたんだろう。 [03:10.705]兄さん… [03:13.217]僕はもっと強くならないと、全ての穢れを切る。根絶やしにして見せる。そうだろう、千代。 [03:24.735]え…あ…はい [03:30.120]何かおかしかった [03:32.669]こんなに冷たい声を発する人だっただろうか [03:37.338]その違和感を程なくして最悪の現実となる [03:43.967]ある晩、物音で目覚めた私は道場へと向かった [03:50.340]そこで見ったのは霧人兄さんが祖父を切り殺した瞬間だったんだ [04:00.307]兄…さん [04:02.643]許せ…ない、憎い、穢れが憎い [04:12.665]何をしているんですか [04:16.778]妹は死んだ、穢れに取り憑かれて死んだんだ [04:25.180]え… [04:27.212]千代、答えてみろう [04:30.678]あ…兄さん、その目、穢れに心を許してしまったんですか [04:38.355]何のための力か?何のために今まで修行してきた?穢れを斬り払うのが綾咲家ではないの [04:49.447]なぜ殺めは知らなくてはいけなかったんだ [04:55.747]この力は無意味だ 意味がないものを全て切り捨ててしまいばいい [05:03.702]違い、違います、兄さん! [05:06.552]お前も無意味だ [05:12.800]死ね! [05:20.315]やめて [05:20.785]死ね—— [05:21.384]やめて、兄さん、兄さん!醒まして! [05:25.805]霧人兄さんは穢れに取り憑かれていた [05:30.643]全ての穢れを斬り払いたい [05:34.137]その強い思いは妹の死によって暴走し [05:38.838]穢れの侵入を許してしまったのだ [05:42.621]正気を失った兄さんはゆらり弔い [05:45.735]斬りかかってきた [05:48.088]私はまだ未熟だった [05:50.805]私よりも遥かに手練れ [05:53.572]防ぐだけでも必死だった [05:56.824]そして穢れを斬り払うだけではなく [06:01.304]彼もろとも貫ぬいてしまったのだ [06:06.172]兄…兄さん、あたし… [06:16.928]徐々に…心の散らしていくくらいなら、今、ここで…お前に斬り払って欲しい。 [06:28.745]あたし… [06:32.340]早く…頼む、千代。 [06:39.238]あ—— [06:47.844]ありがとう、千代。 [06:55.948]私は大切な人をこの手で殺めた [07:01.260]私はもっと強くならないといけない [07:06.862]もう誰も失わないために