epilogue そして数ヶ月後、僕はある工場で働いている。 前科者ということで、なかなか職にあり付くことができなかったが、 この会社の社長が僕のことを気に入ってくれて雇ってくれた。 兄のことも話したら、「お兄さんのためにも頑張りなさい」と言って励ましてくれた。 僕が怪我を負わせた人の所にもお詫びに行った。 会ってくれないかもしれないと思っていたら、快く迎えてくれたことに内心驚いた。 先に手を出した自分にも非があるとさえ言って逆に詫びられた。 聞けば、事件を起こした直後に兄が訪ねてきて、どげざまでして謝ったらしい。 その時は許さないといきまいていたその人と家族も毎日見舞いに来る兄の姿を見るにつけ、 怪我が快方に向うと同時に、冷静に考えることができるようになったという。 お兄さんは元気ですかという問いに、兄はなくなりましたと答えると、 その人は「そうですか」と言ったきり、残念そうに黙って俯いた。 しばらくして僕は封を切らずにいた兄の手紙にようやく目を通した、 それまではとてもそんな気になれなかったが、 少し落ち着いてきたこともあって、兄の言葉に触れたくなった。 予想通りだったが、やはりそこには僕を気づかう言葉ばかりで、 自分のからだのことについては何も触れられていなかった。 まったく兄らしいと思うと胸が熱くなった。 でも、僕は強く生きる。 兄さんが僕の心の中にいるから、そしていつまでも僕の正義のヒーローだから。