[00:04.29]制作/校对:Igu [00:09.89]彼女と初めて出会ったのは、私が八歳の時だった。 [00:14.50]正確に言うと、 [00:15.91]会ったのは私ではなく、其志雄だったけれど。 [00:19.28]私も会話を聞いていた。 [00:22.15]会話の反応の速度で、 [00:24.20]すぐに飛びぬけた才能を持っていると分かった。 [00:27.80]五年後、私は彼女と再会することが出来た。 [00:32.90]私は十三歳になっていた。 [00:35.10] [00:39.92]「同館は、あと30分で閉館になります。 [00:43.90]貸出し手続きがまだお済みでない方は、 [00:46.60]それまでに、手続きをお願い致します。」 [00:49.49] [00:51.42]「あら、貴女。お久しぶりですね。 [00:54.97]真賀田其志雄さん?それとも、妹さんの方?」 [00:59.27]「こんにちは、瀬在丸紅子さん」 [01:02.48]「五年ぶりかしら。一瞬、誰だが分からなかった。 [01:07.18]随分大きくなられましたね。 [01:09.74]お名前伺っても良い?」 [01:11.96]「私の名前をご存じないのですか」 [01:14.64]「妹さんのお名前は、伺っていません」 [01:18.22]「私は、真賀田四季です」 [01:20.87]「初めまして、四季さん。 [01:23.55]お兄様は、お元気?」 [01:25.73]「兄は、いなくなりました」 [01:28.44]「それは、寂しいでしょうね」 [01:32.37]「瀬在丸さんは、現在、どんなご研究を?」 [01:36.45]「いいえ、駄目なの。 [01:38.53]最近は頭が悪くなってしまって、思うようにはいかないわ。 [01:43.10]アイデアはいくつがあるけれど、計算が追いつかないし」 [01:47.38]「計算用のコンピューターをお使いなりたいのでしたら、 [01:51.98]お譲りします」 [01:55.40]「どうして、そんな高価なもの?」 [01:56.35]「好意です」 [01:58.80]「フェイバー?カインドネス?」 [02:03.17]「ふふん。貴女のような方を待っていました。 [02:03.17]是非、貴女と仕事がしたいと思います」 [02:06.29]「どんな?」 [02:07.40]「貴女の好きな仕事を」 [02:09.57]「それならば、もうしています。 [02:12.21]私は貴女にはとてもかなわない。 [02:14.92]私はもう、引退を待つ身です」 [02:17.94]「そんなことはありません。」 [02:19.74]「ごめんなさい。 [02:20.99]私は、貴女が想像している以上に気難しくて、 [02:24.96]協調性がなくて、そういう欠陥品なんです」 [02:29.23]「謙遜や、遠回しな拒絶が必要ありません。 [02:33.14]私と仕事をするメリットは、感じられませんか?」 [02:38.11]「嬉しいけれど、でも、率直に言います。 [02:42.28]感じません」 [02:44.60]「なぜ?」 [02:45.33]「貴女のような天才と仕事をすれば、 [02:47.94]影を受けて、自分もよい仕事が出来そうに思える。 [02:52.40]そういう人も多いのでしょうね。 [02:55.39]でも、それは幻想です。 [02:58.66]私は、貴女から学ぶものは、何もありません」 [03:03.54]「貴女のような方にお会いしたのは、初めてです」 [03:08.12]「ごめんなさいね。期待を裏切ってしまって」 [03:11.47]「いいえ。お話出来て、楽しかったです」 [03:15.26]「私もよ」 [03:17.30] [03:33.75]「はい。新藤です」 [03:36.80]「叔父様、私です」 [03:38.53]「あぁ、四季が。どうしたんだい?」 [03:41.37]「叔父様と、どこかにお出掛けしたいの」 [03:44.65]「忙しいんじゃないのかい?」 [03:46.38]「そんなことどうでも良い。遊園地に行きたい」 [03:50.27]「前にも一緒に行ったね。良いよ」 [03:53.32]「いつでも?明日でも?」 [03:55.86]「構わないよ。君のためなら、他の仕事はいつでもキャンセルできる」 [04:00.57]「嬉しい。じゃあ明日、遊園地に行きましょう」 [04:05.31]「そういう所は、子供みたいだね」 [04:08.58]「遊園地が子供っぽい?なぜ私が嫌がることを言うの?」 [04:14.85]「失礼。からかったんだ。 [04:17.89]でも君は、子供だよ」 [04:20.33]「そうご自分に言い聞かせているだけでしょう」 [04:23.78]「参ったなぁ。もう口でも勝てなくなりそうだ」 [04:28.82]「明日、迎えに来てくださる」 [04:32.70]「分かった。行くよ」 [04:34.14] [04:39.53]「各務です」 [04:40.82]「服を用意して。新しいの。ワンピースが良いわ。 [04:45.70]客観的に見て、女性らしい。大人っぽいものにしてださい」 [04:51.70]「了解致しました。後でお部屋にお届けて致します」 [04:55.64] [05:01.80]「次は何に乗りたい?」 [05:03.70]「ううん。もう充分」 [05:06.20]「酔わなかった?」 [05:07.24]「少し。叔父様、肩を貸して」 [05:11.84]「疲れたようだね。 [05:13.58]花火が終わったら、そろそろ帰ろうか」 [05:16.73]「いや。もう少し、こうしていたい」 [05:23.17]「失礼。ちょっとトイレに行って来るよ。 [05:26.67]ここで待っててくれ」 [05:32.95]「あの...すみません。警備の方ですよね。 [05:37.28]あそこのベンチに若い女の子がいるでしょう。白い服の。 [05:42.27]僕が戻るまで少し見ていてくれませんか。ちょっと心配で」 [05:47.60]「ええ?あぁ...ずっと見てるというわけにも... [05:52.98]それに、遊園地の警備員じゃないんですよね、俺。警察です」 [05:57.82]「警察?何かあったのですか?」 [06:00.62]「いや、念の為の警備です。 [06:04.74]良いですよ、少しの間、見ているようにしましょう」 [06:07.71]「ありがとう」 [06:10.32] [06:12.80]「あぁ、祖父江巡査部長」 [06:14.40]「敬礼しないで。名前何だっけ?」 [06:17.26]「杉本です」 [06:19.33]「こんな眼立つ所に制服で立ってたら、何事かと思われるだけだよね。 [06:24.17]先、巡査部長と話したんだけど、イベント館の方へ警備に回ってくれる? [06:27.89]あっちは手薄なんだ」 [06:28.97][06:30.97]「分かりました」 [06:29.95]「敬礼しない」 [06:30.88]「すみません。あぁ、でも...」 [06:33.64]「何?」 [06:34.67]「先、あそこの女の子を見ててくれて頼まれたんです。たぶん父親かなぁ。 [06:41.96]あれ、あそこのベンチにいたんですけどね」 [06:45.28]「どんな子?」 [06:46.26]「白いワンピースの...中学生ぐらいの、美人ですよ」 [06:50.83]「そういう表現は好きじゃないけど... [06:53.64]そのぐらいの年なら迷い子にもならないじゃない?」 [06:56.13]「そうですね。しかし、まだ現れませんか?例の絵画専門の怪盗は」 [07:01.58]「声が大きい!さっさと行って」 [07:04.73]「すいません」 [07:08.20] [07:14.14]「あの...この辺りに白い服を着た女の子がいませんでしたか」 [07:19.80]「私は見てませんけど」 [07:21.39]「参ったなぁ...あぁ、ありがとうございます」 [07:26.67] [07:36.30]「女につけられている。あれ、君のファン?」 [07:39.52]「えぇ?はぁ...嘘」 [07:43.30]「知り合い?誰か?」 [07:45.11]「真賀田四季」 [07:46.29]「えぇ?どうして?」 [07:48.29]「ちょっと別れましょう?話してくるから十分後にこの先の橋の上で」 [07:52.84]「了解」 [07:54.27] [07:56.44]「こんばんは、各務さん。 [07:58.63]ふふん、面白い格好。いいえ、とっても素敵。 [08:04.10]デートだった?」 [08:05.48]「なぜ、ここへ?」 [08:07.90]「偶然です。デートで来ていたの。 [08:10.62]パレードを見ずに、顔を伏せて通り過ぎるカップルがいると思って、 [08:15.11]見たら、髪の長さも服装も違うけれど、貴女の歩き方だった。 [08:20.83]一緒にいた男性は泥棒?それとも殺し屋?」 [08:24.16]「あの...」 [08:25.69]「ここに来る途中、警官とたくさん擦れ違いました。 [08:30.12]彼らが警戒しているのは、貴方たちのことでしょう。 [08:34.28]そのファッションは素敵だけれど、明らかに変装です」 [08:39.20]「えぇ...泥棒です」 [08:42.40]「彼のことが好き?」 [08:44.36]「それは...」 [08:45.56]「嫌いだったら、こんな協力はしないでしょうね」 [08:49.96]「えぇ...はい。この年になって、多分、初めてのことだと思います」 [08:58.21]「思考が機敏ですね。私は、貴女が好きです。 [09:03.11]教えて頂きたいことがたくさんあります」 [09:05.92]「私を、四季様に?何を教えるというのですか?」 [09:11.86]「キスの仕方を教えて欲しいの」 [09:14.61]「えぇ?どうしてですか?」 [09:17.55]「したことがないから。練習をしたくて」 [09:21.32]「別に...難しいものではありません」 [09:24.45]「どこにも、解説されていません」 [09:28.60]「ここには何方と来られたのですか」 [09:30.99]「叔父様です。彼とキスをしたいの。彼のことが好きだから。 [09:37.54]あぁ...本当に、私どうしたら良いのか途方に暮れているのです。 [09:43.35]どう言えば良いの」 [09:45.30]「思っていることをそのままおっしゃれば良いと思いますけど... [09:49.76]新藤様はどちらに?」 [09:51.74]「今頃、探しているのでしょうね」 [09:54.75]「きっと心配なさっています」 [09:57.35]「その方が良いの。少しはショックを与えて、理性を忘れさせた方が良いわ」 [10:04.37]「本当に、心配されていますよ」 [10:08.27]「先の彼と、待ち合わせているんでしょう。良いわ、もう解放します」 [10:14.88]「はい。では、まだ明日」 [10:18.33] [10:19.49]「四季様」 [10:21.98]「こんなふう?」 [10:23.94]「お上手ですね。初めてとは思えません」 [10:28.25]「本番が、うまくいくよう祈ってて...」 [10:31.89] [10:33.10](終わり)